大判例

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東京家庭裁判所 平成元年(少イ)9号 判決

主文

被告人を懲役10月に処する。

未決勾留日数中、30日を右刑に導入する。

この裁判確定の日から4年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、マウントプロモーション芸能家紹介所の名称で、B等を使用して、有料の職業紹介事業を行っていたものであるところ、

第一C及びB等と共謀の上、法定の除外事由がないのに、ビデオテープレコーダー用映像の制作販売を業とする株式会社「○○」が制作し、Cが録画監督をする「湖畔に燃えて・・・・・・18歳」と題するビデオテープレコーダー用映像の録画に際し、被告人が就労に関する管理権を有する児童であるA子(昭和48年1月22日生、当時15歳)をして男優を相手に全裸で、性戯、模擬性交などのわいせつな演技をさせる目的をもって、昭和63年7月7日及び同月8日ころの2日間にわたり、山梨県南都留郡○○××番地ペンション○○などにおいて、右児童をCの監督の下で右映像録画の主演女優として就労させ、もって、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で同児童を自己の支配下に置いたもの、

第二D及びB等と共謀の上、法定の除外事由がないのに、ビデオテープレコーダー用映像の制作販売を業とする有限会社「○△」が制作し、Dが録画監督をする「友美のいけない冒険」と題するビデオテープレコーダー用映像の録画に際し、被告人が就労に関する管理権を有する児童である前記A子をして男優を相手に全裸で、性戯、性交などのわいせつな演技をさせる目的をもって、同年7月12日及び同月13日ころの2日間にわたり、神奈川県横須賀市○○×丁目××番×号「○△」などにおいて、右児童をDの監督の下で右映像録画の主演女優として就労させ、もって、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で同児童を自己の支配下に置いたもの、

第三E及びB等と共謀の上、法定の除外事由がないのに、ビデオテープレコーダー用映像の制作販売を業とする株式会社「△○」が制作し、Fが録画監督をする「ロマンコレクションHな乳ウエイブ」と題するビデオテープレコーダー用映像の録画に際し、被告人が就労に関する管理権を有する児童である前記A子をして男優を相手に全裸で、性戯、性交などのわいせつな演技をさせる目的をもって、同年7月15日ころから同月17日ころまでの3日間にわたり、東京都狛江市○○×丁目××番×号の「△○」などにおいて、右児童をEの監督の下で右映像録画の主演女優として就労させ、もって、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で同児童を自己の支配下に置いたもの、

第四G及びB等と共謀の上、法定の除外事由がないのに、ビデオテープレコーダー用映像の制作販売を業とする株式会社「○×」が制作し、Gが録画監督をする「淫乱小娘」と題するビデオテープレコーダー用映像の録画に際し、被告人が就労に関する管理権を有する児童である前記A子をして男優を相手に全裸で、性戯、模擬性交などのわいせつな演技をさせる目的をもって、同年7月20日及び同月21日の2日間にわたり、東京都新宿区○○×丁目××番××号の○×××号室などにおいて、右児童をGの監督の下で右映像録画の主演女優として就労させ、もって、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で同児童を自己の支配下に置いたもの、

第五H、I、J及びB等と共謀の上、法定の除外事由がないのに、ビデオテープレコーダー用映像の制作販売を業とする株式会社「×○」が制作し、同会社代表取締役Hの指揮下にJが録画監督をする「あぶないセーラー服」と題するビデオテープレコーダー用映像の録画に際し、被告人が就労に関する管理権を有する児童である前記A子をして男優を相手に全裸で、性戯、模擬性交などのわいせつな演技をさせる目的をもって、同年7月30日及び同月31日の2日間にわたり、東京都渋谷区○○×丁目×番×号の×○××号室スタジオ「×○」などにおいて、右児童をJの監督の下で右映像録画の主演女優として就労させ、もって、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で同児童を自己の支配下に置いたもの

である。

(証拠の標目)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、

一  平成元年8月4日提起された被告人に対する児童福祉法違反の公訴は、その公訴事実が同年6月9日被告人に対して提起された公訴にかかる児童福祉法違反の公訴事実と包括一罪の関係にあり、公訴提起のあった事件について更に同一裁判所に提起された公訴であるから、刑事訴訟法338条3号により棄却さるべきである、

二  仮に、各公訴の実体関係について、判決するとしても、被告人は、本件児童が本件当時18歳未満であることは全く知らず、同女と雇用契約を結ぶ際、年齢について十分な調査義務を尽くし、満18歳であると信じたものであるから、無過失であり、児童福祉法60条3項により処罰を免れ、本件について被告人は無罪である、と主張する。

所論一について

平成元年8月4日提起された被告人に対する児童福祉法違反の公訴にかかる公訴事実は、当裁判所が認定した前判示「罪となるべき事実」の第五の事実と、同年6月9日に提起された被告人に対する公訴にかかる公訴事実は、前判示「罪となるべき事実」の第一から第四までの各事実とほぼ同一であり、これらは、互いに併合罪の関係にあると解するのが相当であって、後者の公訴が公訴提起のあった事件について更に同一裁判所に提起された公訴であるとは認められない。

本件各公訴事実は、いずれも、被告人は、ビデオテープレコーダー用映像の制作会社代表者等又は録画監督等と共謀の上、同人らが、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的で、被告人が就労に関する管理権を有する本件児童であるA子(当時15歳)をそれぞれのビデオテープレコーダー用映像の録画に主演女優として就労させ、自己の支配下に置いたというのであり、児童福祉法60条2項、34条1項9号、刑法60条の罪を構成するというのである。右各事実における犯罪の構造を見るに、本件児童が出演して演技した行為が男優を相手に全裸で露骨な性戯、模擬又は真正の性交等のわいせつな演技の行為で、児童の心身に有害な影響を与える行為であることが明らかであり、本件各事実の場合において、そのような演技をさせる目的で同児童を支配下に置く本件実行行為を行った者は、録画監督ないし映像制作会社代表者等であり、その実行行為は、被告人の同児童の就労に関する管理権に依拠するものの、公訴事実に記載された各月日場所において同児童を支配下に置いた行為であると見られるところ、被告人は、その事情を十分承知し、同人等と直接間接に意思を通じて共謀の上、同人等の録画現場に、自分がかねて就労に関する管理権を有していた本件児童を順次派遣し、右実行行為に関与したものであると理解することができる。このように、本件各事実における実行行為が実行行為者、行為の月日場所、機会を異にし、それぞれ別個独立に成立していることからすると、相五に併合罪の関係にあると解するのが相当である。

所論は、児童福祉法60条1項、34条1項6号の罪(児童に淫行させる行為)について児童ごとに一罪が成立するとの高裁判例(大阪高裁昭和28年3月11日判決、高刑集6巻2号252頁)を引用し、本件の同法60条2項、34条1項9号の罪についても、同様に解すべきであると主張するのであるが、事案の具体的な状況を捨てて、単純に本件の場合を所論判例の場合と全く同じに解釈しなければならないとは言えない。児童に淫行をさせる行為の罪の場合でも、例えば、人材派遣業者が複数の売春業者に同一児童を順次派遣してそれぞれの売春業者をして児童に不特定者相手の淫行をさせる行為をさせたようなときには、人材派遣業者の右行為が直ちに児童ごとに包括一罪となると理解すべきかは疑問であり、かえって、各淫行をさせる実行行為をした売春業者と児童ごとに包括一罪となるが、相互には併合罪となるものと解する余地があると思われる。本件各事案の構造は、行為内容を除けば、この例に近いのであって、被告人自身が児童に淫行をさせる実行行為をした事案に関する右高裁判例は、必ずしも本件の場合を併合罪と解する妨げにはならない(最高裁昭和42年11月8日二小決定、刑集21巻9号1216頁の事案も被告人自身が同一事業所で同法34条1項9号の実行行為をしたもので、本件とは事案が異なる。)。更に、所論は、被告人の行為は、場所的にマウントプロモーション事務所で同一、犯行態様もアダルトビデオ撮影で同一、被害者及び被害法益も同一であるから、構成要件的評価において包括して一罪と見るべきであると言うけれども、実行行為がそれぞれ別個で、その時期場所も別々であることは前記のとおりであり、偶々、犯行態様が類似し又は被害者や究極の被害法益が同一であるということだけで包括一罪とは言えないことも明らかである。被告人は、本件児童をアダルトビデオの主演女優に出演させる等の目的で、同児童と親権者に無断ながら専属契約を結び、事実上就労に関する管理権を取得し、同児童の意思を左右できる状況を作出し、やや抽象的ながら、その時点でも、児童福祉法34条1項9号の目的で、児童を自己の支配下に置いたとも言えるのであるが、更に事柄がその目的に沿って発展して、順次に各映像制作会社と同児童に関する出演契約を締結し、同会社の録画現場に同児童を派遣するに至り、具体的に同号の目的で同児童を録画監督等の支配下に置かしめたものである。被告人が専属契約を結んだ段階より、録画監督等の支配下に置かれた段階において児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる危険が切迫し、現実化の程度が進展しているのであるから、両者に関与している被告人の行為の前者の段階は、後者の段階に吸収され、独立して評価されることがなくなるものと解される(同法34条1項9号では、同条1項6号の淫行をさせたことと異なり、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせたこと自体を犯罪構成要件とせず、同条1項6号の淫行をさせることの未遂を含めて、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせることの危険作出、すなわち、その目的で児童を自己の支配下に置くことをもって犯罪構成要件としていると解されるところ、危険犯の間でも、危険性の低い段階の行為は、その高い段階の行為に吸収されると解するのが相当である。)。この後者の段階においては、前記のとおり実行行為が別個独立に成立しているから、これに関与した被告人についても、にれらの実行行為を基準として罪数評価をするのが相当である。

したがって、本件各公訴事実の罪は、相互に併合罪であり、当初の公訴が提起された事件と後に公訴が提起された事件とは別個であって、同一の事件について別に公訴が提起されたと認めることはできない。

なお、若しも、本件の各公訴事実を実体法上包括一罪と解すべきであるとの解釈をとるとすれば、本件の追起訴は、訴因の追加又は変更をすることで足りたことになるのであるが、そうとすれば、本件では、訴因の追加又は変更の手続の総てを含みそれよりも丁重な公訴提起の手続は、前者の手続として有効であると解することができる。

所論二について

被告人が本件行為当時本件児童の年齢を18歳以上のものであると信じていたとしても、そう信ずるについて過失がなかったとは認められない。すなわち、本件児童は、高額の出演料等を得ようと考え、姉の生年月日を自己のそれのように偽り、18歳と自称し、そのように虚偽記入した学校発行の身分証明書(もっとも、被告人に提示した当時には、生年月日欄が空欄のもの)を提示していたものの、実際には当時15歳に過ぎず、多くの者に自称年齢より若い童顔の少女との印象を与えていたこと、被告人は、昭和63年6月中旬スカウトマンのKから紹介を受けて以来常時同女と接触していたもので、同児童の年齢に危惧を感ずる機会が多い筈であったこと、本件ビデオ録画における女優の演技が演技者としての特別な才能や技能を必要とするものではなく、性交体験と自由で奔放な性意識すらあれば可能な程度のものであるから、同児童のような無分別な少女が年齢を偽って、高額の出演料を得ようとすることがあり得ることは、この種のビデオ録画等に女優を派遣する業者として当然予期すべきもので、就労希望者が児童でないか否かを慎重にかつ誠実に見究める必要があったこと、被告人は、自身で又は他の従業者をして、同児童の年齢確認のため、前記の虚偽記入の身分証明書以外には、自動車運転免許証や旅券等のような確実な身分証明方法の提出を受けたり、同児童の自称年齢でも未成年者であるのに、本件当時までには親権者その他の親族に照会したりはしておらず、同児童の自称するところを慎重にかつ誠実に点検確認する努力をしていたと言い難いこと等を総合し、かつ、別の同種映像制作会社では厳密な年齢確認をしたため本件児童の映像録画出演にまで進展しないで終わったことと対比すれば、被告人の行為は、少なくとも児童福祉法の期待する注意義務を完全に尽くしているものとは到底認められないのであって、被告人が本件児童の年齢を18歳以上と信じたことについて無過失であったとは認定できない。

よって、本件について、被告人に児童福祉法60条3項但書の無過失があるとは認められない。

(法令の適用)

判示所為について

児童福祉法34条1項9号、60条2項、刑法60条(懲役選択)

併合罪の加重

刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に加重)

未決勾留日数の算入

刑法21条

刑の執行猶予

刑法25条1項

訴訟費用の負担

刑事訴訟法181条1項本文

よって、主文の通り判決する。

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